DAN KINJYO (cook/FUAN)

豊かな時を味わう。 
築50年の赤瓦と琉球松や山野草に囲まれた庭を持つ沖縄そばの店『風庵』。オーナーである金城男さんは、東京でのサラリーマン生活の後、祖父母が住んでいた古民家を自らの手で改装してこの店をオープンさせた。半年振りに訪れたその日、変わらない晴れやかな笑顔で彼は僕を出迎えてくれた。

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W: 以前は、東京で働いていたんですよね。沖縄に戻ろうと思ったきっかけって何だったんですか。
K: 名護の大学を卒業してからから4年間ですね。その時は漠然と外の世界を見たいって思い東京で働くことにしました。休みの日は外房線に乗って千葉までサーフィンしに行ったり、代官山に出掛けてレコードを買い漁ったり。楽しいことも沢山ありました。でもそんな生活の中で、少しずつ違和感も感じていたんです。
これから年を重ねていった時にどうなるのだろう。毎月給料を貰って日々の暮らしを繋いでいることは出来るけれど、その先はどうなるのだろう。「仕事はお金を稼ぐもの。その後で好きな時間を過ごせばいい」という考えと、「人生の大半の時間を使うのならやっぱり好きなことをしたほうがいい。その後に好きなことを楽しめばもっと最高」という考え。その狭間でずっと宙ぶらりんな感覚が続いていたんです。モノも情報もお金もあったけど、何かが足りないって思っていました。
じゃあ何が本当は僕にとって大切なのだろう。そのことを考えると、僕にとってそれは「海」と「友達と過ごす時間」だった。それが一番大切だった。そして、そんなとてもシンプルなものだけで成り立っている生活こそが僕には必要だって気付いたんです。それで沖縄に戻ろうと思いました。
そんな時、祖母が亡くなったという連絡が妹から届いて。帰省した時に父から「この祖父母の家を改装して、何かやらないか」と言われました。最初僕は沖縄に戻ってきてもこちらの企業に就職しようかと考えていたのですが、どうせ沖縄に戻るなら自分自身の生活を自分の手で創っていく、自分がしたいことで生活をする方がいいと思い、その話に乗ってみることにしました。その時はまだそれが沖縄そばの店だとも決めていなかったのですが。

W:シンプルに大切なものと暮らすということを考えたとき、それは必然的に沖縄という場所だったんですね。
K: そうですね。自分自身の好きなことをシンプルに実現するには、やっぱり沖縄だろうと思っていました。東京は今でも好きなところです。サーフィンしに行っていた千葉の海も凄く良かった。千葉だと1日に何回でも海に入れるけど、沖縄では朝夕の満潮時だけしか入れない。それでもやっぱり沖縄の海の方が良かった。上手くいえないけど、惹き付ける何かがあるんです。例えば海に潜っていて海面に上がってくる瞬間、夕陽がぱっと海に映り出されたその瞬間。奇麗なんです。何か理屈ではなく、ただ「いい」って思える瞬間。そんなことがここでは多いんです。沖縄だと海で知り合いになったらそのまま浜に上がって一緒にビールを飲むとかそんな出会いも自然にあるし。千葉ではなかなかそんなことはなかったですね。


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W:料理の心得はあったの?
K: 全くなかったんです。父の知り合いの料理人を紹介してもらい、昼はこの古民家の改装と造園工事、夜は料理を学んでいきました。全てゼロからだったけど、やりたいことだけを考えて、そのために少しずつ必要なことをやっていけばいいと思った。そうすれば、結果は付いて来るだろうって。汗をかきながら庭を造り、ちょっと休んではまた身体を動かす。ただ目の前にあるものを運び、目の前のそばを作っていく、そういう感覚が凄く嬉しかった。

W:この1週間ほど僕は沖縄を旅していてあちこちで沖縄そばを食べたんだけど、『風庵』のそばは本当に香りが良いし、他のどの店とも違う味だなって気付きました。
K: 沖縄そばにはいろんな味付けがあるんです。ベースづくりにイカやトビウオ、野菜を使うところもある。『風庵』は伊良部島の鰹を使っています。鰹の味をベースにしたいと思ったのは、それが僕の家の料理の味であり、原点だったから。鰹の味が引き立つようなスープをどうすればつくれるのか、行きつけの沖縄そばのお店の人に尋ねて教えてもらったりして。味付けはそうやって色々と学ぶ中で、自分自身の味を探しつづけてきました。なまじ料理を勉強していなかったので、いろんな人のアドバイスを素直に聞けたと思います。そんな時、若さを強みですね。
沖縄そばはとてもシンプルな料理です。それ故につくり方や熟成のさせ方によって味も変わる。食べる方も食べ方によっていろんな味を変えて楽しむことも出来る。楽しみ方は本当にそれぞれ。どれが一番とかもないし。どれが一番自分らしいか、ですね。

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W:男くんはこの『風庵』という場所でどんな自分らしさを表現したいと思っているだろう。
K: ただ目の前にポンと置かれたそばをお客さんがどれくらい美味しい、奇麗だと思ってくれるか。そしてそば自体は勿論、ここに居る時間や空間までをお客さんに楽しんでもらいたいって思っています。
 そばが美しく映えるように、器は読谷村の陶芸家・大嶺實清さんにお願いしてつくって頂いています。勿論、自分でつくったそばは自分できちんと出して、お客さんと出会っていきたいと思っています。『風庵』の庭には花もあるし、シーサーもいる。全てを合わせて、食事の時間をここだけで過ごせる「特別な時間」として提供していたいんです。いい雰囲気で、美味しいそばをいい器で食べる。そんな食事と遊びが一緒になっている時間そのものを提供したいと思っています。そばを食すのは基本的に昼。時間が無いからぱっと食べるっていうのが普通。でも『風庵』ではいつもは10分で食べる昼食を、20分かけて味わってもいいんじゃないかな、って思ってもらえたら嬉しいです。
大晦日の夕方、例え波が小さくても「今年の入り納めだ」といって僕は友達と一緒に海に入るんですね。隣には仲間がいて、全員で夕陽を眺めている。強烈にいい時間、いい風景が目の前にある。そんないい時間と風景を目の前にした時、そこにはただただ「いいなあ」って思う気持ちしかない。理屈ではない、言葉でもない。触れて初めて分かること。ただシンプルに感動するってこと。そんな瞬間、そんな時間、そんな体験が沖縄には沢山あるんです。ただ「いい」って思える時間、それがこの『風庵』で僕が表現したいこと、提供したいことなんです。


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僕と男くんとの付き合いは僕が始めてこの店を訪れた2年半前に遡る。以来、僕は半年に1度のペースでこの場所を訪れている。今回の取材も僕は沖縄に着く直前に彼に電話をして彼を訪ねた。何ヶ月も前から計画して会うのじゃなくて、「また来たよ」と言って会うことがやっぱり彼や風庵で過ごす時間には一番似合っていると思っているから。そんな風にして彼に会えることは僕にとっても最高の喜びでもある。
「帰ってきたよっていって友達がふらりと寄ってくれる。そんな風に友達が来るのを待っていられる場所、誰かを迎えられる場所があるっていうのは本当に嬉しいですよ。」 彼は温かい沖縄そばを僕のために作りながらそう微笑んだ。 祖父母が暮らした家に今も流れ続ける時間、父親たちの世代が養ってきた智慧と意思、沖縄という土地とそこに立ち現れる光や風の記憶、眩しい感覚を繋いでいくこと。 そんな繋がりは豊かさを育む。僕はここでそんな揺るがない確かな豊かさを味わっている。男くんが作ってくれるそばを食べながら、僕はそう感じた。(鷲尾和彦)


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金城男 
1976年2月29日生まれ、28歳
沖縄県立普天間高校、名桜大学を卒業後、4年間の東京でのサラリーマン生活を経て、2000年10月17日に、沖縄県・東風平に沖縄そば『風庵』をオープンさせる。

沖縄そばと山野草 『風庵』
住所 沖縄県島尻郡東風平町友寄108 
TEL 098-998-5832
営業時間 午前11時半~午後6時
定休日 火曜日



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