『挑むっていうよりも、「調和」してみたいんだよね』
(インタヴュー: 東京、2004年9月16日)

8枚目の新しいアルバム『寂-jaku-』がもうすぐ日本でも発売されますね。
今回は、尺八、津軽三味線、和太鼓などの和楽器が沢山フューチャーされています。
トラディショナルな音楽がこんなにもスリリングなものか、僕はかなり驚きました。
何年もの間、世界中を訪れていますが、海外の文化を新鮮に感じることはあってもなかなか足元の文化を見詰めることって出来ないものです。僕は長い時間をかけてようやく最近自分の国の文化を見詰めることが出来るようになってきた気がしています。
少し話が変わりますが、このアルバムを創る少し前に、すごく久しぶりに夜釣りに行ったんです。
それはとても穏やかな日で、大きな月が輝いていて月明りが水面を照らし出していた。波もない凪の夜。全く静かな時間でした。そこでは僕が振る竿の音だけが響いていた。シュッ、シュッって。大人になると生き物と真剣勝負するという機会もなかなか無いでしょ。そのことも新鮮だったし、それ以上にこの夜釣りの時に見た風景、感覚、音、全てが凄く新鮮だったんです。 こうした経験も要因になっていて、何か自分の中で一度日本が本来持っている固有の文化に向き合ってみたいと感じたのだと思います。挑むっていうよりは「調和」してみたいという感じですね。
ぱっと聞くと、穏やかなビート、ゆったりと大きなリズム。でもその背後では物凄いスピードでザワザワと何かが動いているような感覚があって、聴き込めば聴く込むほど新しい「音」や「風景」が見えてくる。僕自身久々に音楽の魅力を堪能しています。
まさにそんな風に感じてもらえているというのはとても嬉しいですね。先ほどの夜釣りの情景もそうだけど、僕はいつも自分の中に浮かび上がる風景やその感触を音にするにはどうすればいいんだろう、ってことを徹底して考えて創り続けています。そして特に今回はそのことを強く意識しました。月が出ている静かな風景、しかしその中に何かザワザワした生命が宿っている感じ。そんな風景が僕の中に浮かび上がってきた日本の風景だった。 表面的に判りやすいところで聞こえてくる音楽の背後に、なにかザワザワした感覚が宿っていて聴く人を刺激していくこと。そこを描き出せないと僕の音楽じゃないと思っています。
音を創るというのはとても難しい作業です。
漠然として抽象的、コトバでは伝えきれない何かが自分の中には確かにある。身体が覚えている。そういうものを毎回手探りしながら音にしていくわけです。
例えば、高すぎず、低すぎず、中空を飛びぬけるような感覚の音ってどういう風に表現すればいいんだろう、自分が感じる「赤」の音ってどれだろう、とか。それを探すのに何百枚もレコードを聴いて、必死に探します。そうやってパレットのように音を揃えていくんですね。映像を浮かべて、それを音の絵の具で描きだしていく風にして僕は自分の音楽を創っています。

誰でも最初は多かれ少なかれ海外の音楽に影響を受ける部分ってあると思うんですね。でも今はDJ KRUSH独自の表現方法に昇華されている。皆「私なり」って言葉を使うけど、本当にカタチにするには難しいことだと思うのですが。
そうですね、僕も勿論最初は海外の文化に影響を受けました。
確かに他所の国で興きた文化にインパクトを感じて音楽の世界に入っていった。 でも僕は最初からどうせやるんだったら逆に自分自身の音を世界中に響かせたいと思った。連中と同じことをやっても、結局物まねでしかないでしょ。世界に通用したいと思うのなら、結局は自分自身を、自分の中の個性を出していかないと駄目だと思っていた。
若い頃ってチカラだけはあり余っているけど、何をやったらいいかよく分からないもの。僕も全くそうで、ティーンエイジャーの頃は自分が何者で何をしたいのかもよく分かっていなかった。そんな中で『WILD STYLE』というサウスブルックリンのHip Hopカルチャーを描いた映画に偶然に出会ったんです。単に新宿を歩いていてふらっと覗いた映画がそれだった。この映画と出会ったことで、きっとそれまでに自分の中にはあったけど、自分自身でも見えていなかったものがさーっと出て来たんだと思う。
それ以来、僕はいつも自分の中にある「定規」を当てにして物事を決めている。今僕が感じている感覚をいかに人に伝えるか。見せられるか。未だに自分とは何だ?ってことを探し続けているんだよね。大げさではなく命掛けなところがある。それって簡単には出来ない。でも自分で探していくしかない。音楽を創っていくのは、そんな自分自身の中を探していく過程なのかもしれない。今回のアルバムでは自分の中にある「定規」と、長く続いてきた日本の伝統的とがどんな風に出会うことが出来るんだろうってことにトライしてみたいと思ったんだね。
僕にとってこのアルバムは日本人の身の回りにあることってこんなにも刺激的で豊かなものなのかってことに気付くひとつのきっかけになった。もう遠くや外の世界に何かを求めていくんじゃないんだな、って。
たぶん、時代も反映しているんじゃないかな。海外に身を置いて眺める今の日本ってモノが本当に溢れているという表現が相応しいし、誰でも何でも手に入れることが出来る環境にいると思う。
そういう環境や社会に慣れていると、逆に自分の足元にあるものを見詰めていくことって少なくなってしまう。意識して自分の感覚や身体によるインプット、そして自分自身の定規を持たないと、逆に何も出来なくなってしまう。豊かな時代はそんな危険な時代でもあると思うんです。
そのためには情報やテクノロジーとの向き合い方って結構大切だと思っています。
例えば、DJになりたい人にはDJ養成学校もあるし、パソコンやソフトも音源ソフトも同じだから、プロと同じ音をつくること自体はとても簡単です。でもそれは自分自身の音楽といえるのだろうか。
僕もまだ機械に慣れていない頃は、このパソコンが何か特別なことをしてくれるんじゃないかなって思っていた。でも結局そうではないことに気付いた。PCを使って音を出してもそのPCの味が強すぎるとそれは自分じゃないんだよね。それに満足する人もいるかもしれないけど、やっぱり僕はそれでは満足できなかった。だって自分じゃないんだもの。僕は自分の音を創りたいから音楽をやっているんだし。例えば、テクノロジーともそんな風にして付き合っていくことが必要だと思っています。

聞けば聞くだけ、発見がある。なんて自由な音楽なんだろう。音楽作りがこんなに自由なのか。でも逆に自分の感受性を試されている気もしました。自由を味わうには自由を味わえる人間でいないとなあって。
自分なりの表現を行うのに、あるカテゴリーの中にいると難しいね。例えばHip Hopという音楽のカテゴリーに居ても、自分の表現のための絵の具は足りなくなってくるしね。但し、自由はおっかないよね。確かに自由になるための道具は豊かに揃う時代だと思う。でも、問題は自分自身を自由に感じるか、または自由になるという姿勢を持てるかってことだと思う。
自由であることはタフなことだし、そのためには常に自分と向き合うことからしか始まらないと思う。僕だって弱いところもあるし、タフじゃない時もある。でも自分自身に向き合う努力だけはしてきた。そういう時間を意識して持つことって大切だと思うね。
海外に行くと僕が接する若い人たちは、例えば「今昼間仕事しながら、夜はDJの練習をしている。」とかちゃんとやりたいことを持っている人たちが多いですね。
日本では、「いや、別に」とか、「いや、ノリで」とか、「わかんない」とかぬるい感じの人が確かに多い気もする。まあ僕が若いときも同じようなもんだったかもしれないけど。
確かにこの日本も明日はどうなるか判らない。そんな中で将来や自由や夢を高らかに語れない現状も確かにある。
本当は言いたくないことなんだけど、この前、娘には「未来なんて信じるな」って言ったんだよ。でもね、その代わりに一日一日、その日にやらないといけないことをしっかりとやっていく、ということを話した。とてもベタなことなんだけど、それを続けていくことしかないと思うんだよね。日々をしっかり生きることはとても難しいことだと思う。でもそのことを向かっていく姿勢が大切だと思う。僕もそうでありたいと思っている。
先に未来のことばかり見ても仕方ないんだ。足元を見詰めてみること、そこに豊かなものは沢山あるはず。 ほんの少しだけ手を伸ばして、せめて明日とかね。
(SONY GRAMI, 2004.10月)
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DJ Krush
1962年東京生まれ。サウンド・クリエーター/DJ。選曲,ミキシングに於いて抜群のセンスを持ち、サウンド・プロダクションに於ける才能が全世界で高い評価を獲得している。
1987年にKRUSH POSSEを結成。日本を代表する実力派ヒップホップ・チームとして、様々なメディアで活躍。1992年9月の解散後はソロ活動を精力的に行い、日本で初めてターンテーブルを楽器として操るDJとして注目を浴びる。ソロ作品はいずれも国内外の様々なチャートの上位にランク・インし、6thアルバム『漸-ZEN-』は、"インディーズのグラミー賞"といわれるアメリカのAFIMアワードにおいて特に芸術性の高い作品に贈られる"ベスト ダンス アルバム 2001"最優秀賞を獲得している。
DJ Krush ニューアルバム『寂-jaku-』(2004年リリース)
「和=平和・調和」~憎しみの連鎖を予感させる今の時代に音楽という人々の心に訴える手段を持って立ち向かっていきたい~という思いも込められた言葉をコンセプトに、選りすぐりのゲスト・アーティスト達と共に創り上げた本作は、KRUSHでしか成しえない生とのコラボレーションが集結した意欲作。尺八、津軽三味線、和太鼓など、ソロでは初めて生の和楽器奏者をフィーチャー。
[フィーチャリング・ゲスト]
森田柊山/木下伸市/内藤哲郎/島健/坂田明/DJ TATSUKI/Mr.Lif/Aesop Rock
石垣昭子 AKIKO ISHIGAKI
セヴァン・カリス=スズキ SEVERN CULLIS-SUZUKI
ジャック・ジョンソン JACK JOHNSON
池澤夏樹 NATSUKI IKEZAWA
シム レッドモンド バンド SIM REDMOND BAND
佐野元春 MOTOHARU SANO
木下ときわ TOKIWA KINOSHITA
ダニー・ライアン DANNY LYON
バルタバス BARTABAS
金城 男 DAN KINJYO
長島一由 KAZUYOSHI NAGASHIMA
寺本一生 ISSEI TERAMOTO
清水勝広 KATSUHIRO SHIMIZU
ジャック・ジョンソン JACK JOHNSON
ドノヴァン・フランケンレイター DONAVON FRANKENREITER
