西村佳哲 YOSHIAKI NISHIMURA

空はいつも空 ~世界を再発見するということ~

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風が吹くと小さな灯りをともす『風灯』、地球に落とす太陽の影をリアルタイムに映し出すことで自然時間を体感できる『アースクロック』、太陽や月の光が地球に届くまでの時間を示す砂時計『イン・ディス・タイム』。西村佳哲さんが手掛ける仕事に触れるとき、自分自身の感覚が宇宙のサイズまで広がっていく伸びやかな心地よさをいつも覚える。

僕たちは人間が作り出した人工の2次情報に囲まれてしまっている。
『世界はこうですよ』って書いてある窓はいっぱいあるんだけど、その外に広がる風景そのものがよく見えないというような状態で窮屈で息苦しくなっているんじゃないかな。コンテンツ、コンテンツって言われるけど、僕はそんな2次情報ってもう要らないと思うんだ。
大切なものはもう既にある。そしてそれに気づけば人は幸せを感じると思うよ。公式があるとしたらそれだけ。僕らは、僕ら自身が愛しいと感じることを分かち合う技術として、デザインを使っている。
例えば風鈴。風鈴は風が吹いていることを知らせるサイン音だよね。音を聞かせるものではなくて、「今、風が吹いている」ということを共有するための装置。そしてあの音が鳴ったら、なぜか風が頬に触れたような気がする。風鈴は人間の感覚の延長器官だともいえる。それとは違う形で風が吹いていることを共有することはできないかって僕らは「風灯」をつくった。
実は僕らはデザインそのものにはそんなに興味がないんだ。デザインよりも『真実』が好きだし、『真実』に近づくための回路をつくることに興味がある。

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(『音の地球儀』)

西村さんが手掛ける仕事は、どれも世界を再発見するための小さなツール。そして僕が感じた心地よさとは、世界そのものにダイレクトに繋がっていくことの快楽なのだと思う。「既にそこにある」ものに気づくために、世界を再発見するために、僕たちは何を取り戻せば良いのだろう、何に気づけば良いのだろう。

例えば、隣に誰かが座っていたら何か喋らなきゃと、たった15秒の沈黙も耐えられない人っているよね。それは実はテレビやラジオにつくられてしまったリズム感だと思う。15秒の沈黙でも今の人にとってはまるで一種の放送事故。それくらい、とても時間密度の高い時代に生きているんだと思う。
確かに人は社会的な約束事のもとに生きざるを得ない。でも自分自身が感じているものをじっくり味わう前に、『今は笑うところなんだ』『今は感心するところなんだ』という風に社会的な状況に回収されてしまうということが少し過剰に強すぎるように思う。
だから「間を空ける」という時間の尺度を変えることで、世界の接し方を変えることから始めていくことは出来るんじゃないかな。
特に勉強や仕事が出来て情報の処理能力が高い人ほど、そんな風に過剰適合になりやすい。なんでも出来ちゃうから、テニスのネットプレーみたいに、ただ飛んで来た球を深く捉えることなく反射的にネット際で打ち返そうとしてしまう。よく見ることなく、すぐに自分の中で出来上がった雛型みたいなものに上手に合体させて「こういうものだ」と答えを出してしまう。
そんなネットプレーを繰り返すうちに自分自身のことがどんどん分からなくなってきて、自分のことはわからないけどボールだけは返し続けるようになっていく。そんなときに不意に背後のライン際にロブとか上げられると、パニックになってしまったりする。
これは、何か自分と世界との間を埋めなきゃならないっていう強迫観念に駆り立てられている姿なんだと思う。でも結局、何も見えてはいないし、何も聞こえていないんだ。

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(『In this time "ある時間"をしめす砂時計のシリーズより』)

「既にそこにある」ものに気づくためには、世界そのものの豊かさを味わうためには、「よく生きる」ことしかないんだと思う。写真を撮る前によく見る、演奏する前によく聞く、飲み込む前によく噛む、話す前によく聞く。そんな風に、本当に見たり、本当に聞いたり、本当に味わったりすることが大切なんだと思う。アウトプットよりインプット。世界を感じる解像度を高めることが肝心。自分の実感から離れることは、世界からも離れていくことだから。
情動や感動のつまみってひとつしかない。世界に対する情報接取の姿勢だけであって、そのつまみが開いているときは、世界に向かって全方位に開いていると思う。自分の中にあるそのつまみを大きくできるかどうか、それだけなんだ。
よく噛んで食べる人は自然の移ろいも同じように味わっていると思うよ。

世界を再び発見できるかどうか。それは僕たちの世界との接し方次第。

人間の仕事って何なんだろうと考えてみると、それはやっぱりこの社会の中で自分を生かしていくということだと思うんだよね。自分を生かしていくことを死ぬ時までやり続けるということ。そのためには、自分自身がどうやって生きたがっているのかということに耳を澄まさざるを得ない。徹底して自分に付き合うということ。他人付き合いと同時に、自分付き合いをしていかなければならない。それなしに自分を生かしていくということはあり得ないと思う。死ぬまで終わらない仕事というのは自分を生かしていくということであって、そのためには生きている自分を感じるということだし、生きたがっている自分を感じるということ。自分の生命力がどっちの方向に枝を伸ばしたがっているのか、芽を伸ばしたがっているのかということをよく見ることだと思う。
そのために『デザイン』ができることは何だろうってことを考えるのは、とても面白くていい課題だと思っているよ。

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(『風灯』)

「音をたよりに世界各地を旅してきたんだ。時々、夜明け前から真っ暗な森の中に入って朝が来る音に耳を傾けることがある。最初は鳥や虫の鳴き声。そのうち一瞬無音の時間になって、パシャッと魚が水面を跳ねる音が聞こえ始める。コスタリカでは猿が騒ぎ出す。そうしてだんだん色んな生き物が目覚め、その鳴き声が交響曲のように重なっていく。朝は決して一度には来ないんだよね。そしてスタジアムのウェイブように、今この瞬間も地球上をゆっくり回っている。今日は月曜とか、明日は大晦日だとか。僕らは自分たちが作ったルールの中で一喜一憂しているけど、そんなこととは無関係に毎日朝になり夜になる。東京で空を見上げると、地球の裏側で見た空を思い出すんだ。あの空もこの空も同じだなって。」

ひとつの空。空はいつも空。
それはとても平和な世界のイメージ。


( 写真/文:鷲尾和彦、 掲載:『広告』2009年4月号)

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西村佳哲 Yoshiaki Nishimura
1964年東京生まれ。デザインオフィス「リビングワールド」代表。「センスウェア」(世界を感じる道具)をテーマに、博物館や美術館の展示物・展覧会、公共空間のメディアづくり、グラフィック、ウェブサイト、教育系ワークショップ、建築空間などのプランニングとデザインを手がけている。



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